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ディーン・R. クーンツ「ウォッチャーズ」の感想です。

ディーン・R. クーンツ「ウォッチャーズ」☆☆☆

ウォッチャーズ

家族を失い、生きる意欲を失い、深い絶望と孤独の中で何とかその日を暮らしている中年男性トラヴィス・コーネルは、山奥深い峡谷の森の中で、一匹のゴールデン・リトリバーと出会う。

首輪もつけず野犬のような汚さだが、妙に人慣れし愛想の良いその犬は、トラヴィスが森の奥に向かおうとすると、彼の前に立ちふさがり、危険を知らせるかのように激しく吠え立てた。

何か恐ろしいモノが、この先にいる。

危険な予感を感じたトラヴィスは、犬とともに自分のクルマに戻り、急いで森から立ち去る。

この犬はどこか他の犬と違う・・・。アインシュタインと名付けた犬と暮らすうちに、トラヴィスは犬の仕草や表情に意志や知性を感じる。

そんな時にトラヴィスとアインシュタインが公園で出会った女性ノーラ・デヴォンも、深い絶望を抱きながら暮らしていた。変質者に付きまとわれても何も出来ないほど内気だったノーラだが、アインシュタインとトラヴィスに窮地を救われ、トラヴィスと付き合う事で変化が訪れる。

アインシュタインと出会い、深い絶望の淵から這い上がったトラヴィスとノーラは、二人を救ってくれたアインシュタインを何よりも大切に思う。しかし時折アインシュタインが見せる何かを警戒するような態度が気にかかる。。

果たしてこの犬はどういう犬なのか、そして何を警戒しているのか・・・。


スティーブン・キングと並ぶモダンホラーの大家ディーン・R・クーンツの、第十二回日本冒険小説協会大賞を受賞した作品で、管理人は彼の最高傑作だと思います。

謎の研究組織により生み出された並外れた知性を持つゴールデン・リトリバーと、この知性豊かな犬を追う政府組織、恐るべき殺し屋、そして謎の生物<アウトサイダー>を絡ませながら物語は進行していきます。

このアウトサイダーという生物の存在がすごい。

アインシュタインと同じような実験体で、初めのうちは単なる凶悪な謎の生物として描かれるアウトサイダーですが、その恐るべき秘密と哀しい性を描いた時、怪物は存在感を持ちます。

人を殺傷する為に作られ、人を憎む気持ちを植え付けられた醜い生物。誰からも恐れられ嫌悪される生物。誰からも好かれるアインシュタインの対極にいる生物。

それでも知性がなければ、動物としての本能だけで行動するだけの生物であれば救いも有るけど、彼にもアインシュタインと同様に人間並の知性が与えられている。

自らの醜さを嫌悪し、孤独で哀しい、誰からも愛されない存在。ミッキーマウスが大好きな怪物。

この生物を描く事により、クーンツは冒険ホラー小説を更に上の物語に昇華させたと思います。

更に精神に異常をきたした殺し屋を登場させる事により、人間の殺し屋と殺人生物を対比させる。果たして、どちらがより人間性を欠如しているか・・・。

管理人はラストシーンで、映画のブレードランナーを連想しました。素晴らしい傑作だと思います。