コニー・ウィリス「オール・クリア」☆☆☆
時間旅行が可能になった21世紀に、オックスフォード大学史学部で歴史を専攻する学生が過去の時代に現地調査に赴くというタイムトラベルSF・シリーズの3作目になるブラックアウトの続編、というよりもブラックアウト(灯火管制)とオールクリアー(警報解除)の2作で一つの作品です。
しかもオールクリアの邦訳(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)は2冊に分かれていますし、長大な大作SFになっています。
第二次世界大戦中の英国を調査しに出かけた史学部生ポリー、アイリーン、マイクの3人は、それぞれの「降下点」が開かなくなり、未来に帰還出来なくなる。
ロンドン大空襲により灯火管制が敷かれたロンドンに集まった3人は、何とか未来に戻る方策を探るが何をしてもうまくいかない。
空襲に怯えるロンドンで暮らすうちに、ポリーが未来に帰還できるデッドラインが近づいてくる。
何故「降下点」は開かないのか、史学生が危険だと判断された時に救出に来る「回収チーム」は何故現れないのか、何故当初の予定と違った「降下点」に降下したのか、自分たちが取った行動で未来を変えてしまったのか、まさかナチス・ドイツが勝利したのか・・・。
読者は何となく分かっているものの、1941年の英国に取り残された3人の不安や恐怖は並大抵ではありません。
ましてや、ポリーはロンドン大空襲の現地調査に来る前に、英国が勝利したVEデーの調査で1944年を訪れているため、同一時間に存在する事が出来ないデッドラインを近いうちに迎えてしまいます。
果たして3人の運命は・・・という事を主軸にしながら、戦時下の英国の生活を細かく描写して、興味が尽きません。
しかも舞台が現代に近いため、タイムトラベル物に特有のミステリィの要素も強く有って、あれがこの事の伏線だったのかと思う場面もたくさんあります。
長大な作品なのに、読み始めれば一気に読めそうです。
管理人は一気には読みませんでしたが、続編が出るのが楽しみでした。
ただ個人的にひとつ気になったのは、こういう事態を引き起こした'歴史'に、まるで意思があるように受けとめられる事でしょうか。
良い歴史と悪い歴史というような観点で歴史を俯瞰するのはどうなんだろう。
もちろんあからさまにそんな風に描かれているわけではないものの、少々疑問を感じてしまいました。
まぁ作品の面白さ自体が損なわれているわけではありませんけどね。