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クリス・ウィタカー「われら闇より天を見る」の感想です。

クリス・ウィタカー「われら闇より天を見る」☆☆☆

われら闇より天を見る

カリフォルニアの海沿いの小さな町ケープ・ヘイヴンで、7歳の少女シシー・ラドリーの死体が発見される場面から物語が始まる。

それは過失事故ではあったが、その犯人として逮捕された15歳の少年ヴィンセントは、判事のあまりに過酷な裁定で懲役10年の刑を受け、刑務所内で別の殺人事件を起こしたことから更に20年の刑期を加えられ、30年を刑務所で過ごすことになる。

当時ヴィンセントと付き合っていたシシーの姉スターは、ケープ・ヘイヴンの酒場で働きながら歌を歌い、シングルマザーとして無法者を自称する少女ダッチェスとまだ幼い少年ロビンを育てていたが自殺癖があり、そんな彼女を支えていたのはヴィンセントの親友で警察署長をしているウォークだった。

ウォークはシシーの死体発見者でもあり、そしてヴィンセントの事件で自分がした証言とその結果に今でも悔恨の念を抱いていた。

事件らしい事件も起こらない平穏な町に、30年の刑期を終えて釈放されたヴィンセントが帰ってきた事を契機に、また新しい事件が起こる。


ミステリィというよりも、様々な人物が登場する人間ドラマじゃないかな、と思いながらページをめくり、ダッチェスとロビンの過酷な運命の変転に心を痛めて、何だか読むのが辛くなるような作品だなぁと思いながら、それでも途中で止められずに読み続けました。

でも主人公であるダッチェスの強い気持ち、なかなか他人に素直になれないけど、自分を支える強い自尊心で困難に立ち向かう姿は心を打ちます。

また、人の良さだけで生きてきたような警察署長ウォークの、凡人だけど凡人なりに出来ることをしなくちゃいけないと自分を変えていく姿勢にも好感が持てます。

ミステリィっぽくないなと思って読んでいましたが、実は構想のしっかりしたミステリィで、物語が進むうちに様々な真実が見えてきて、その上でそうするしかなかった行動と深い悔恨と贖罪、誰もが持つ心の闇と光、様々な形の深い愛情が描かれていて実に驚きました。

罪を犯しても本当の意味での悪人は登場しない作品で、余韻の残る見事なミステリィでした。