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青山文平「つまをめとらば」の感想です。

青山文平「つまをめとらば」☆☆

「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の6篇の短編を収録した時代小説です。

青山文平作品を読むのは、この短編集が初めてなのですが、何となく独特なスタイルの時代小説という印象を受けました。


「ひともうらやむ」は藩内で評判の美女を妻に迎えた親友に対して、やや屈折した気分を持った若い武士の運命を通して、思ったことを真っ直ぐにやり遂げる女性の芯の強さを見事に描き出しています。

「つゆかせぎ」は俳諧が唯一の嗜みという、目立たぬように平凡に生きることが信条の武士と、華やかで奔放な性格の妻の物語で、この作品にも女性の強さを感じます。

「乳付」は身分違いの旗本の家に嫁いだ御家人の家の娘が、自分の居場所を見つけるまでの物語。

「ひと夏」は兄の厄介になっている次男坊の武士が、治めることが難しいとされる領地に赴く物語。この作品にも少し変わり者の女性が登場します。

「逢対」は算学に打ち込む貧乏旗本が、煮売屋の女と夫婦になるかどうかを悩む話。欲のない主人公が爽やかな印象です。

表題作の「つまをめとらば」は女運のない旗本が、自分の家作を貸した幼馴染の武士との付き合いを通して、人間関係の煩わしさ、特に女性とともに暮らす面倒と、しかし一人暮らしの寂寥感について考えを巡らす話。

全体的に男には真似ができない女の強さのようなモノが描かれている時代小説集で、舞台は江戸時代ですけど、登場人物の考え方や行動が妙に現代的な印象で、そういうところが独特な感じでした。