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A・E・ヴァン・ヴォークト「武器製造業者」の感想です。

A・E・ヴァン・ヴォークト「武器製造業者」☆☆☆

武器製造業者

センス・オブ・ワンダーの作家ヴォークトの1947年発行の傑作SF小説です。管理人が読んだのは創元推理文庫の1968年の版で中学生の頃です。

気宇壮大なSF「イシャーの武器店」で起きた事件の7年後が舞台ですが、確か原作はこちらの「武器製造業者」の方が先に刊行されたと思います。

巨大な権力により地球を支配するイシャー王朝。何度かの大規模な戦争を経た後、地球はこの帝国の支配下にあり、数千年の間人々の暮らしは安定し平和が保たれている。

しかし帝国の権力が限度を超えて一般庶民を圧制するような時には、帝国に抵抗する人々に武器を提供して戦う万年野党とも言うべき勢力「武器店」の存在があり、地球を統べるイシャー帝国は完全なる独裁政治を行う事は出来なかった。

帝国内には度々「武器店」を排除しようとする勢力も現れたが、地球の平和は二大勢力の均衡の上に成り立ち、歴代皇帝を始めとして表立って「武器店」を壊滅させようとする動きはなく、また「武器店」側も帝国から権力を奪うことは考えていない。

そうした情勢が長く続いていたが、現イネルダ女帝の時代において、この均衡を破らんとする陰謀が密かに進行していた。

武器店の幹部で、イシャー王朝と武器店の連絡将校のような役割でイネルダ女帝の側近として仕えるロバート・ヘドロックは、突如イネルダ女帝の寵愛を失い、更には武器店からも追われる状況に陥った。

実は地球で唯一の不死人であるヘドロックには大きな秘密があった。

恒星間動力船をめぐる陰謀を知ったヘドロックはケンタウルス座に向かうが、そこで蜘蛛型の神の如き超生物の一群と遭遇する。

地球が迎える重大な危機に際し、ヘドロックはいかに立ち向かうか?


現実的ではないかもしれないけど、絶対的な権力を持つ為政者と、その監視者と割りきった反対勢力が存在する、こういう政治制度も面白いと思います。

今は何となく選挙により政権が交代する民主主義こそが最も優れた制度で、これを批判するのは難しい雰囲気が有りますけど、人の作った制度である以上は完全なものは有り得ない。

絶対君主制の方がうまく機能する場合もあるのでしょう。

ただ本当に民衆のことを考えて政治を行う絶対君主制は難しいし、どうしても権力者に都合の良い方に流れてしまうわけで、そういう難点を補うという意味で、為政者よりも強い力を持つ万年野党の存在というのはなかなか面白い発想だと思います。

この作品はそういう世界を描いていますが、もちろん基本はエンターティメントSFです。

たいして項数が多い作品ではないのに、複雑なプロットが進行して、地球でただ一人の不死人へドロックがスーパーマン的な大活躍をして、彼の秘密と理想が明らかにされていくという物語は実に壮快です。

ヴォークトの作品って意外と古臭さを感じさせないし、やっぱりすごいなぁ。