面白い本を探す

三浦綾子「氷点」の感想です。

三浦綾子「氷点」☆☆☆

北海道旭川の病院長辻口啓造の3歳の娘ルリ子は、一人で遊んでいるところを行きずりの男・佐石に連れ去られ殺害された。

ルリ子が佐石に拐われた時、ルリ子の母・夏枝は病院の医師・村井と密会していた。

留置所で自殺した佐石、罪の意識もあって狂乱する夏枝。

恩師の娘である夏枝を責めるに責められず呆然とする啓造は、佐石に娘がいたことを聞くと、「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えを実践するとして、夏枝に相談なく佐石の娘・陽子を養女に迎える。

養女となった陽子は可愛らしく気立ての良い子で、亡くなったルリ子の身代わりだとして溺愛する夏枝に育てられ、賢く純粋で素直な少女に成長する。

しかしある日、啓造が書きかけた手紙から、夏枝は陽子がルリ子を殺した男の娘である事を知る。


朝日新聞社が主催する当時としては破格の1千万円の懸賞小説に入選し連載された話題作で、その後内藤洋子主演でTVドラマ化され大ヒットしました。

ちなみに我が家でも毎週観ていて、当時小学生だった管理人も細かい点は良く分からないながら、娘をいびる夏枝を演じた新珠三千代の演技に震えていたような記憶があります。

この作品はドラマを見終わった後で、姉が持っていた本を勝手に読みました。

小学生に本当の意味で理解出来たかと言えば、少し難しかったように思いますが、TVではよく分からなかった事が小説を読んで納得できたように思います。

自分を愛し慈しんでくれた母が、突然意地の悪い事を始めて、戸惑いながらもそれを受け止めて毅然とした態度でいる陽子と、母の陰惨ないじめにあっても感情を出さずに耐え忍ぶ陽子に、更に憎しみを募らせていく夏枝。

夏枝は今の状況が、娘を死に至らしめた自分の浮気に対する夫啓造の復讐だと理解しているが、啓造ではなく陽子に辛く当たるしかない。

作品のタイトル「氷点」とは、何があっても前向きに生きようとする陽子の心がついに凍った瞬間を表すのだそうです。

そういう主題だとすれば救いようのない物語なのでしょうか。

しかしそんな風な印象は管理人は受けません。

陽子の兄・徹の陽子に対する深い愛情や、夏枝の親友で陽子を可愛がる人のよい女性辰子などを屈託なく描いているところに、作者の思いがあるようにも思えます。

色々な読み方が出来る作品なんでしょう。