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荒木あかね「此の世の果ての殺人」の感想です。

荒木あかね「此の世の果ての殺人」☆☆☆

此の世の果ての殺人

半年後に小惑星テロスが日本の熊本に衝突するという予測が突然発表される。

日本は当然として、東アジアも壊滅的な被害を受け、地球上のあらゆる場所が大きな影響を受ける事が確実視され、人類は滅亡の危機を迎えた。

世界中で大パニックが発生し、略奪や暴動が起こり、少しでも安全な場所を目指そうとした人々の大移動が始まる。

そうした大混乱で人口が急減した福岡・太宰府天満宮近くに住むOL小春は、小惑星の衝突まであと2ヵ月となる中、ある目的を叶えるために自動車の運転教習を受けていた。

人気の殆どない福岡の町で何故か自動車教習所に残っていた教官イサガワに指導を受けていた小春は、ある時教習車のトランクの中に刺殺された女性の遺体を発見する。

2ヶ月後には滅亡する世界で起きた殺人事件に戸惑いながらも、イサガワと一緒に警察署に通報した小春たちは、近隣で同じような殺人事件が起きていることを知らされた。

元警察官だと言うイサガワと二人で、小春は不可解な殺人事件の調査を始めるのだが・・・。


江戸川乱歩賞受賞の世紀末ミステリィで、とても面白い作品でした。

舞台は2ヶ月後には滅亡することが決まっている世界、大パニックと狂乱の時は過ぎ去り、町に留まるのはここに残って終わりの時を迎えると決めた人々か、様々な事情でこの地に残らざるを得なかった人たち。

この衝撃のニュースが発表された時、コンビニを経営していた父親は店の食料品を確保して家族の安泰を測ったが、母親が家族を残して一人だけ逃げ出した時から気力をなくし、遂には自らの命を断ったし、弟は事件の前から学校内のいじめの問題で引きこもりを続け、世界の終わりが近づいても引きこもり続けている。

そして二十数年間を何事にも流されるように生きてきた小春は、今更安全な場所に避難しようと考えるほどの気持ちはなく、自分で自分の命を断つような覚悟もなく、破天荒な行動を起こす性格でもなく、父親の死にも引きこもる弟にも心を動かされることもなく、ただ淡々と生きている。

こういう世界の終わりに近づく様子の描写が見事で、そこに起きた連続殺人事件の謎解きと結末も何だかすごい感じがします。

この作品がすごいのは、破滅する世界という基本設定がただの背景ではなく、物語の柱にキチンとなっていて、この世界の設定がないと話自体が成り立たたず、そうした世界ならではの事件の真相が納得出来るように描かれているところです。

パニック・ミステリィやSFホラー・ミステリィはそれなりにありますが、こういう風な雰囲気のミステリィってありそうでなかったような気がします。

しかし江戸川乱歩賞も変わりましたね。

20年前だったら、この作品は荒唐無稽すぎるとして候補にもなっていなかったように思います。

こういう作品が出てくる一方で、呉勝浩の「爆弾」のような凄い作品もあるし、日本のミステリィもまだまだ面白い作品が書かれていくんでしょうね。