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船戸与一 「砂のクロニクル」の感想です。

船戸与一「砂のクロニクル」☆☆☆

砂のクロニクル

イスラム革命により王政を打破したイラン。そのイランの少数民族クルド人は、イラクからシリア・トルコにまたがる広大な地域に住んでいるが、分断され独自の国家を持たず各地で圧政を受けている。

革命で混乱するイラン国内で、民族の悲願である独立国家の樹立を求めて武装蜂起を企むクルド人たちが、必要な武器の調達を託したのは、武器の密輪を生業とする謎の日本人ハジだった。

果たしてハジは、2万梃のカラシニコフAKMをホメイニ体制下のイランに無事運び込めるのか・・・。


第5回山本周五郎賞の受賞作で、1993年度の「このミステリーがすごい!」で1位となった冒険サスペンス小説の傑作です。

こういう骨太で緻密に構成された冒険小説を書ける作家が、日本にもいたのかと感動しました。

フレデリック・フォーサイスの作品にも匹敵するようなリアルで迫力のある小説です。

登場するのは、ハジ(巡礼者)と呼ばれる日本人の極左のテロリスト、同じくハジと呼ばれる日本人武器商人、ホメイニのイスラム革命を信奉する若き革命防衛隊員とその姉、クルド・ゲリラ達、グルジア・マフィアなど・・・。

様々な人たちが登場して織り成す、今の日本人には想像もつかない厳しく過酷な生き方が、実に迫力をもって心に訴えてくる。

宗教が生活に強く結びついた中東イランを主な舞台にして、殆ど宗教上の対立や民族問題が発生しない日本人には、観念的には理解出来ても、肌に感じられる切実さがピンと来ない民族間の奥深い不和を主題にして、ともかく生きるという事を描いています。

初めて読んだときにはスゴイという感想しか思い浮かびませんでした。作品の中から迫ってくる情念に感動する名作です。