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ティム・パワーズ「アヌビスの門」の感想です。

ティム・パワーズ「アヌビスの門」☆☆☆

アヌビスの門

時の流れにはある特定の短い時間だけ開く「孔」があり、そこをうまく通れれば時間旅行が可能になる。

変人の大富豪ダロウはさまざまな資料を調査して、その「孔」が開く日が近づいている事を知り、19世紀の英国にタイムトラベルをする積りだと英文学者のブレンダン・ドイルに打ち明けた。

ダロウは好事家仲間を高額の料金で集めて、英国の高名な詩人コールリッジの生の講演を聞きに行くツアーを企画しているが、コールリッジの評伝を出版した専門家のドイルに、参加者に事前講義をして欲しいと依頼してきたのだった。

何となく如何わしい話だと思いつつも、コールリッジの生の講演を聞けるという魅力に負けて、ドイルもダロウの旅の仲間に加わる。

確かにタイムトラベルは出来た。コールリッジにも会えた。しかし、いざ元の時代に戻ろうとした時、ドイルは不可解な事件に巻き込まれて19世紀に取り残されてしまう。 

しかもこの19世紀のロンドンでは、古代エジプトの魔術師が弱まった魔術を復活させようと画策中で、さらに町には摩訶不可思議な出来事が多発していた。


次から次へと息も切らさぬ感じで予想外の物語が進む冒険スペクタル・ファンタジィで、ともかくやたらと面白い作品です。

後になれば成る程ねぇと思わせる展開は全くスゴイの一言で、得体の知れない怪人物や妖怪変化が登場する西洋版の伝奇小説といった感じでしょうか。

主人公ブレンダン・ドイルは知力・体力に勝る英雄タイプどころか、ひ弱でさえない中年のインテリ・タイプで、どことなく人が良い好人物です。

そんなドイルがわけも分からずに奇抜な事件に巻き込まれてしまい、事態の進展に付いて行けず、どうすれば良いのかも分からずに右往左往しているうちにドンドン深みにハマって行く。

けっこう恐ろしい騒動に巻き込まれていくのですが、ジタバタしている内にドイルは思わぬ大活躍をするようになります。

早いテンポでビックリするような展開で話が進むところも面白いし、19世紀のイギリスの風俗や習慣も興味深いし、悪役にもなんだか憎めないトボケた味わいがあって、読んでいてホントに楽しい奇想天外な小説です。

フィリップ・K・ディツク記念賞を受賞したファンタジィで、管理人は大好きです。

しかしなぜか作者のティム・パワーズは日本で人気が出ませんね。

こんなに面白いのに絶版になるし翻訳も少ないし・・・。残念です。