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ロジャー・ゼラズニイ「光の王」の感想です。

ロジャー・ゼラズニイ「光の王」☆☆☆

光の王

遠い宇宙の惑星に殖民した宇宙船の乗員たちは、卓越した科学力と軍事力によって原住民を制圧し惑星を支配する。

移民1世たちは、この星に厳然としたカースト制度の社会を作り上げ、自らは子孫たちの肉体を利用して何度も転生する不死を得て、古代インドの神々を称して天上界に住み、民衆の上に君臨していた。

しかしそんな中で、かつては天上に君臨する神々の中でも一際大きな力を持っていた男が、外界に降りて自ら仏陀と名乗り、神々の圧制に苦しむ人々を救わんとして、数人の協力者と共に立ち上がる。


1968年のヒューゴー賞を受賞した傑作SF小説です。

初めてこの作品を読んだ時には本当に驚きました。

それまで神話とSFをこれほど巧みに融合させた小説を読んだ事がなかったし、この作品以降にもここまで見事な作品は読んだ記憶がありません。

ヒンズー教の事は詳しく知りませんけど、最高神ブラフマンや破壊神シヴァ、死の女神カーリーなどのインド神話の神々と化した第一世代植民者たちや、民衆を救済するために新しい宗教を起こした釈迦を思わせる主人公、かつて'神々'との戦いに敗れ封印された羅刹と呼ばれる原住民。そうした様々な存在と神々との戦いなどのインドの神話や世界感を植民惑星の中で展開させていく手法が本当に見事で読み応えがあります。

物語は様々なエピソードを重ねるように進みますが、管理人が特に感じ入ったのは、正覚者・仏陀を名乗る主人公サムが、彼を殺しに来たカーリー神の暗殺者をいつの間にか弟子としてしまう場面です。

仏陀を殺しに来たのに、逆に命を救われ、仏陀が信者たちに語る説法を聞いているうちに改心して仏弟子となり、深い悟りを開き善逝と名乗る元暗殺者の男。

しかし、仏陀を狙う別の暗殺者が現われた事から、彼はまた元の姿に戻り、仏陀を守るために敵わぬ強敵と対峙して死地に赴く。

仏陀はそんな善逝こそが真の正覚者だと語ります。

ともかく物語の舞台として古代インドの世界を持って来たところが素晴らしい。

一神教のキリスト教やイスラム教では、こういう形に仕上げるのは難しかったでしょう。

エンターテイメントなのに、どこか哲学的なものを感じる場面も多く、SFの持つ力や寓意性を強く感じさせる名作だと思います。