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ピエール・ルメートル 「悲しみのイレーヌ」の感想です。

ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」☆☆☆

悲しみのイレーヌ

フランス・クルブヴォアにあるロフトで売春婦2人が身体をバラバラに刻まれるという猟奇殺人事件が起きる。

捜査を担当することになったのは、パリ警視庁犯罪捜査部班長のカミーユ・ヴェルーヴェン警部と彼の優秀な部下3人。

ルイ・マリアーニはブランド品で身を固めた富豪の美男子で、わざわざキツイ汚れ仕事などする必要ないのに、彼にしか分からない理由で刑事をしている。アルマンは警察内に知れ渡る極端な吝嗇家。ジャン=クロード・マレヴァルは26歳の若い放蕩者でカミーユはいずれ汚職警官になるのではないかと危惧している。

それぞれクセのある部下を率いるカミーユ自身は、高名な画家を母親に持つ身長145センチの矮躯の警部で、同情を伴わない愛情で彼を見つめる愛妻イレーヌと暮らしているが、近々初めての子どもを授かる予定でいる。

「こんなのは見たことがありません」とルイが言うほど凄惨な殺人現場に残された証拠品は、わざわざ金をかけた形跡があり、壁には被害者の血文字で「わたしは戻った」と書かれ、指紋のスタンプが押されていた。

同じような事件が過去に起きているのではないかと調べたカミーユは、同様の未解決事件があった事を知る。


その女アレックス」が評判になり、一躍日本で人気が出たピエール・ルメートルの処女作のサスペンス小説です。

もし「その女アレックス」がまだ未読ならば、こちらの「悲しみのイレーヌ」から読むことを強くお勧めします。この作品の続編になる「その女アレックス」には「悲しみのイレーヌ」のネタバレ要素があります。

2部構成になっている作品ですが、2部に入ってからの展開が実に見事です。

こういうトリックのミステリィ自体は他にもあると思いますが、そこに至る道が実に見事で、しかも自然で、これはやられたと素直に感動しました。

アメリカのミステリィとも違うヨーロッパのミステリィの香りがして、殺害現場は凄惨でエグいのですけど、全体的にどこか気品のようなモノを感じました。

ただこの邦題はどうなんでしょうね。

「アレックス」が先に出版されて評判になったからでしょうけど、「Travail soigne(丁寧な仕事)」という原題をそのまま使ったほうが良かったと思います。