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中島京子「小さいおうち」の感想です。

中島京子「小さいおうち」☆☆☆

小さいおうち

昭和の初期に山形の片田舎から東京に女中奉公に出てきた貧しい少女・布宮タキ。

幾つかの家に女中奉公していたタキが、その人生の中で一番の思い出だと語る洋風の小さなおうち平井家で過ごした日々を、甥の息子・健史に「覚え書」という形で回顧する物語です。

「覚え書」に書かれているのは、タキが仕えた無邪気で美しい奥様と、歳の離れた玩具会社の役員をしている優しい旦那様、そして身体の弱かった坊ちゃんとが暮らす少し裕福な家庭の様子と、旦那様の会社の若手デザイナー板倉の縁談に関わる思い出。

戦前ののどかな時代から、徐々に戦時色が濃くなり敗戦を迎え、そして再生された日本で独り身を通して生き抜いて来た老女タキの話には、女中として奉公してきた平井家の浮き沈みと、そして彼女が抱えてきたささやかな秘密が隠されていた。


時代考証がしっかりしているので、何気ない日常の出来事がまるで本当にその時代に暮らしているように迫ってきて、管理人自身が生きた時代ではないのに何故か懐かしさを感じます。

普通の人たちがそれぞれ一所懸命に生きて、自分の力で何とか出来ること、自分の力ではどうすることも出来ないこと、人生の岐路に立ってそれぞれの生き方を決断し、その時々の判断の正しさに悩みながらも生きていく姿が描かれています。

誰もがしていることですが、主人公のタキが自分の行動に対する疑問を抱えながら生きてきた事が最後になって分かり、普通の人の普通の人生が胸に染み渡りジーンときます。

読み終えた後にも余韻が深く刻まれる、第143回直木賞受賞の名品です。