荻原浩「砂の王国」☆☆☆
大手証券会社勤務のエリート・サラリーマンだった山崎遼一は、働きづくめで仕事が行き詰まり、精神に変調をきたし、距離を置いていた妻からは離婚届を叩きつけられ、会社を辞めて高利の借金を重ね、いつのまにか所持金がたった3円しかないホームレスになってしまう。
かろうじて残っていたプライドを捨て、しのぎやすい公園で暮らすようになった遼一は、そこで知り合った美貌のホームレス仲村と、怪しい占い師の龍斎を見ているうちにあるアイディアを思いつく。
このままホームレスのままでいても仕方がない。
浦和競馬場で命をかけた勝負を仕掛け見事大穴を当てた遼一は、それを元手に仲村を教祖に、龍斎をヒーリングの大家に祭りあげて、新興宗教「大地の会」を立ち上げ、自分は事務局長として裏方に徹しながら怪しげな商売を始める。
始めは殆ど信者のいないのんびりした「大地の会」だったが、仲村のカリスマ性と遼一の企画が当たり、若者をターゲットにして「大地の会」はみるみる大きくなっていく。
しかし霊感商法のような、世間の非難を受ける宗教団体にはしたくない遼一の気持ちとは裏腹に、徐々に「大地の会」はカルト化していき、創設者でありながら裏方に徹していた遼一の統制は効かなくなっていく・・・。
少し不気味ですが面白い小説です。
前半部分のホームレス生活を描いたあたりも面白いし、後半の新興宗教を立ち上げていくあたりも面白い。
新興宗教が大きくなっていく過程は少し出来すぎという感じもしますけど、でも小さな新興宗教が大きくなって行くにつれ方向性がずれていく感じは良く描かれていたと思います。
遼一の子供の頃の体験が物語に生かされていて、彼の夢中になってしまう性格の説得力になっているし、カリスマ仲村の正体も分かりが良かった。
何故か常に焦燥感にかられて生きている遼一の創り上げたものを「砂の王国」と名付けているあたりに作者のセンスを感じます。
人間がカルトに囚われていく姿を薄気味悪く描いていて、いろいろな事を考えさせてくれるユニークな小説で面白かったです。