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荻原浩「明日の記憶」の感想です。

荻原浩「明日の記憶」☆☆☆

明日の記憶

50歳になったばかりの広告会社営業部長が若年性アルツハイマーに罹り、徐々に記憶障害を起こしていく姿を主人公の一人称で書き進めていく、第18回山本周五郎賞を受賞した感動的な作品です。

最初は歳のせいで物忘れがひどくなったと思っていたのに、実は不治の病若年性アルツハイマーだったと知った時のショックは、自分自身と立場を置き換えてみると良く分かります。

管理人も近頃は本当に物忘れが激しくて、この小説の主人公の佐伯がとる行動を笑ってなんかいられません。

今、自分が何をしようとしていたのか忘れてしまうことや、眼の前に居る人の名前が思い出せない事など日常茶飯事だし、通い慣れたはずの今いる場所がどこだか忘れてしまう事が、いつか自分にも起きるのではないかという不安・・・身につまされる。

自分が自分でなくなる恐怖、支え合う夫婦の絆、色眼鏡で見つめる世間の人、おそらくリアルな出来事に色々なことを思いながら読んで、そして管理人もこうした現実に向き合う。

平凡な人物が妻や娘のことを思いながら懸命に生きる姿が感動を呼びます。

最後には記憶を失ってしまいますが、生きていく意欲を失うわけではない終わり方に救いを感じます。

平均寿命が伸び、認知症に関する問題がニュースを賑わす最近では、こういった記憶障害が実に身近に感じられるだけに、他人事とは思えないテーマの描き方が納得できて、本当に素晴らしい作品です。