A・E・ヴァン・ヴォークト「宇宙船ビーグル号の冒険」☆☆☆
広大な宇宙。未知なる世界の学術調査を行うため、極度に専門化された科学者達を乗せた超光速の大型宇宙船ビーグル号が星から星への探索の旅に出る。
行く手に待ち受けているのは、人智を超えたエイリアンたち。
一見可愛げのあるペットのようだが、知性を隠し人間たちに取り入った後で食料にしようと考えている猫型生物のケアル。
テレパシー能力を持ち、宇宙船内の隊員たちを催眠誘導してビーグル号に大混乱をもたらす鳥型エイリアンのリーム人。
真空の宇宙空間の中で生き、原子配列まで変化させる能力を持ち、航行中のビーグル号内にさえ侵入してくる緋色の宇宙怪物イクストル。
生物の生命エネルギーを餌として成長し、地球をも狙っている恐るべき生命体アナビス。
このようなエイリアンたちに対して、ビーグル号の乗員たちは結束して立ち向かうのだが・・・。
センス・オブ・ワンダーに溢れ、スケールが大きいSF小説で、1950年に発表された作品とは到底思えません。
ビーグル号の前に現れる恐るべき奇想天外なエイリアンとの接触や対決も想像力に富んでいて楽しいですけど、管理人は宇宙船内での科学者達の権力闘争が人間らしくて好きです。
こういう政治的な場面を描くのがヴォークトは本当に達者だと思います。
また、それぞれの科学分野の専門家集団が、いわゆる専門バカのような状況にある中で、極度に専門化された科学技術を巧みにコーデュネイトするという新しく生まれた総合科学から、ただ一人ビーグル号に乗り込んだ若き科学者エリオット・グローヴナーの活躍が非常に示唆に富んでいます。
複雑な科学知識を組合せて全く新しい発想や技術を生み出す手法、それを体系化した科学というのは実際に現代でも必要とされていると思いますが、それを60年以上前に予見してこういう娯楽作品に取り入れているヴォークトの慧眼には敬服します。
こういう作品を読むと、SFって本当にスゴイし楽しいなぁと思いますし、若い頃にこういう小説に出会えた幸せに感謝しますね。
20世紀SF黄金期の傑作の一つです。